人体の熱平衡式
人体と環境との間の熱平衡式とその人体側の要因である人体に関する係数値研究の進展を技術史的に明らかにし、その問題点と検討事項について述べている。人体と接触する物体との間の熱交換は、日本における生活では多様な姿勢がとられていることより、人体が触れる面を介する熱交換量は無視できない。したがって、人体の熱平衡式は代謝による熱産生量 と、対流による熱交換量、放射による熱交換量、蒸発による熱交換量、伝導による熱交換量、人体への蓄熱量 とで表現できることを述べ、この人体と環境との間の熱平衡式を算定するには人体に関わるさまざまな数値を特定する必要があることを示している。そして、労働空間を対象とした温熱環境の設定目標値が軽作業空間であるオフィス空間に適用できるのか、さらに、オフィス環境を想定した実験室実験による温熱的な快適域が生活環境に適合するのか、など温熱環境を検討する際の問題点を明らかにしている。室内空間における生活環境では、行動性体温調節を考慮した姿勢状態や姿勢変化が温熱環境を計画するには重要な問題となることを示している。加えて、熱交換量の算定式を中心とした人体係数値の問題点を指摘している。そして、姿勢の違いに関する人体の係数値研究の蓄積が少ないことを明確にし、蓄積されてきた姿勢別の人体係数値を基に、温熱環境指標や熱収支に関する研究で一般的に用いられている立位や椅座位姿勢の人体係数値とその他の平座位や臥位姿勢のものとの間には有意な差があることを示している。伝熱面積に至っては10%~20%程度の顕著な差があることを明らかにしている。実在の空間は均一空間ではなく不均一空間であり、床面付近の室温や表面温度は他の室内構成面と比較して顕著な温度差が形成されている。立位や椅座位と比較して、平座位や臥位姿勢では床からの伝導や放射の影響を強く受けるので、姿勢の違いを考慮して日本人の熱収支を算定する必要があることを明確にしている。


体表面積
日本人の体表面積算出式の提案と検証をおこなっている。人体の体表面積に関する研究は19世紀の後半より始められ、多くの実測研究と体表面積算定式を導出する研究がなされている。人体の体表面積算出式は、身長や体重といった比較的容易に身体の特徴を捉えることが可能な人体計測値から構成されている。海外においては、Funkeが人体の体表面積の実測をおこなって以降、1916年のDuBoisの人体の体表面積算出式が広く利用されている。日本においては、大谷が人体の体表面積の実測をおこなって以降、1968年の藤本・渡辺らの6歳以上の人体の体表面積算出式が広く利用されている。文化や食生活などのさまざまな要因により体格や体組成などが変化するので、人体を対象とした研究は継続的におこなう必要がある。加えて、戦後、食生活や住まい方の変化に伴い日本人の体格・体組成は大きく変化し、無視し得ないものとなっており、現状の把握は必要不可欠である。このような身体特性の変化後の日本人を対象とすることにより、現在の日本人の温熱環境に関する研究がより実際的なものに進展する。そこで、日本人の体表面積の現状を把握するために、体表面積を実測し、体表面積算出式の根拠となっているDuBoisら、 高比良、藤本・渡邊らと実測値との間に有意な差があることを明らかにしている。そして、日本人に最も適合性のある体表面積の算出式を提案している。人体はさまざまな要因により変化を続けているが、提案した人体の体表面積算出式が約10年を経た後でも適用可能かの検討をおこなった。新たな体表面積を実測し、実測値と体表面積算出値とを比較し、DuBoisの算出式と藤本・渡辺らの算出式については、算出値と実測値との間には有意な差が示され、特に女性では著しく低い算出となることを明らかにしている。また、痩身な男性においても同様な傾向を明らかにしている。一方、提案した算出式については、算出値と実測値との間の差は有意ではなく、実測値と適合することを確認し、提案した人体の体表面積算出式の有効性を検証している。


代謝量
日本人の生活空間における温熱環境を詳細に評価あるいは予測するための各姿勢での代謝量の基準値を立位や椅座位、平座位、臥位といった生活空間でとる姿勢別に実測により求めている。従来、温熱環境を評価する場合の環境指標にあてはめる代謝量の数値は、これまで欧米人の値を多く用いてきた。しかし、代謝量については、例えば第六次日本人の栄養所要量調査の基礎代謝量のデータからは性や年齢、体表面積の個体差からは体格、作業時の代謝量のデータ比較からは人種や作業要因による差異を示し、欧米人の数値を安易に用いることには注意が必要なことは明らかである。これまでに生理学の分野での基礎代謝量に関するものや温熱環境分野での作業時代謝量に関するものなど多くの実測がおこなわれ、代謝量のデータが作業状態ごとに一覧化されている。しかし、これらの資料は、労働時の姿勢という観点からのデータであり、平座位を中心としたくつろぐ時にとる姿勢での代謝量は示されていない。そして、多くの研究は労働姿勢と生体反応との関係という観点からのため、平座位姿勢についてはほとんど対象とされていない。そこで、日本人の代謝量を立位、正座位、胡座位、横座位、立て膝位、投げ足位、側臥位姿勢について示しています。加えて、椅座位姿勢からその他の姿勢に変えることの影響を確認し、姿勢別に代謝量を示す必要があることを明らかにしている。そして、椅座位姿勢の代謝量を基準とした各姿勢の日本人の代謝量比を明らかにしている。これにより、椅座位姿勢の代謝量を定めることで、日本人が生活空間でとる姿勢別の代謝量を算出可能としている。


対流伝熱面積
人体の対流熱交換に関わる伝熱面積を生活空間でとると考えられる立位と椅座位、正座位、胡座位、横座位、立て膝位、投げ足位、側臥位、仰臥位の姿勢における対流伝熱面積率を直接測定により求めている。裸体人体の対流伝熱面積率に関する研究は1934年にBüttnerが仰臥位人体の有効対流伝熱面積率を報告している。しかし、推定値のみで科学的根拠は得られていない。そこで、人体の対流熱交換に関わる伝熱面積率を全体表面積を測定することにより立位、椅座位、正座位、胡座位、横座位、立て膝位、投げ足位、側臥位、仰臥位の姿勢別にそれを明らかにしている。従来は、人体は全て気流に開放されるとしていましたが、対流伝熱面積率は放射伝熱面積率よりも大きな値となることを示している。また、有効対流伝熱面積は人体の全体表面積よりも明らかに小さな値となることを実測により実証している。立位や椅座位でも体表の多くの部分が気流に開放されておらず、熱平衡式には有効対流面積率が不可欠な要因となることを実証している。なお、人体の有効対流面積率の実測による究明は世界で初めてである。


対流熱伝達率
人体の対流伝熱面積に着目し、人体全身の対流熱伝達率をサーマルマネキンを用いた実験により明らかにしている。人体の対流熱伝達率は実験研究により理論式ではなく実験式を求める研究がおこなわれてきたが、実験手法や算定理論により異なった数値となっている。これは人体形状が複雑なために、対流熱伝達率を算定の際に用いる人体側の実測値が、全身や部分の代表値として妥当なのか、そして、実測精度として有効なのかなどに起因していると考えられる。また、人体の対流熱伝達率に関する研究の多くは立位と椅座位姿勢が中心である。これには人体が介在する対象空間の設定が影響してるが、各研究とも人体の体表面全てが対流熱交換に関与するとした条件設定がしやすいことが背景にあったと考えられる。人体全身の対流熱伝達率は立位や椅座位についての研究は進んでいるが、その他の姿勢については稀有である。加えて、人体全身の対流熱伝達率の算定の際に人体の対流伝熱面積を考慮しているものは稀有である。そこで、居住空間を想定し平座位や臥位姿勢のように人体と床面との接触面からの熱伝導の影響を無視できない姿勢を取りあげ、人体全身の対流熱伝達率をサーマルマネキンを用いた実測によって明らかにしている。そして、人体の対流伝熱面積を組込んだ対流熱伝達率の実験式を提案している。次に、風向に着目した人体の強制対流時における熱伝達率を求めるために、人体の部位別の熱伝達率を人体を用いた実測により明らかにしている。風向別、姿勢別に取り扱う必要があることを明確にし、人体の伝熱面積を組込んだ全身の対流熱伝達率の実験式と放射熱伝達率を姿勢別と風向別に提案している。








放射伝熱面積
人体の放射熱交換に関わる伝熱面積を生活空間でとると考えられる立位と椅座位、正座位、胡座位、横座位、立て膝位、投げ足位、側臥位、仰臥位の姿勢における放射伝熱面積率を直接測定により求めている。人体の放射伝熱面積に着目した研究は人体の有効放射面積を求める研究としておこなわれてきた。裸体立位や椅座位姿勢の有効放射面積は多くの報告例があるが、いずれも、人体と周囲環境との間の熱交換の経路では熱伝導に該当する床面との接触面を有効放射面積に含んだ処理をしている。その他の姿勢については稀有である。加えて、同一人体での実測研究は皆無である。また、被験者比較や体型・体組成比較をするには伝熱面積の基準値となる人体の体表面積が重要となるが、この面積を実測して人体の伝熱面積を検討している研究は皆無である。そこで、人体と周囲環境との間の熱交換量の基準となる人体の伝熱面積に着目し、熱交換量の算定に必要であるが未整備である人体の放射伝熱面積を被験者を用いた実測により明らかにし、基礎データとして供している。さらに、姿勢の違いによるその面積の違いを明らかにすることで、体表面が接触したり、体を屈曲させる姿勢の有効放射面積率は、比較的開放的な立位姿勢と比較して小さくなるという姿勢の影響が顕著に現れることを明らかにしている。


放射熱伝達率
人体の熱放射データとしての立位(大気開放, 床面接触)と椅座位(大気開放, 椅子座面・椅子背凭れ面・床面接触)、胡座位(床面接触)、投げ足位(床面接触)、仰臥位(床面接触)の7つの姿勢別に放射熱伝達率を求めている。人体の放射熱伝達率は、対流熱伝達率を求める過程や人体の熱収支を求める過程で算出していると考えられるが、具体的にその数値が記載されているものは極めて少ないのが実情である。加えて、立位や椅座位姿勢以外の数値は皆無である。放射熱伝達率を直接測定しているのではなく、各部位と空間面との間の形態係数を求め、ステファン-ボルツマンの法則により算出している。さらに、人体の放射伝熱面積率や人体の放射率の特定に影響される。そこで、放射熱伝達率を直接実測し、人体の放射伝熱面積率を求めている。姿勢の違いによる熱伝達率の違いを明らかにすることで、部位表面との接触や相互の距離に加えて、床面との接触による影響が顕著に現れることを明らかにしている。


形態係数
生活スタイルを考慮して、居住空間でとると考えられる立位と椅座位、正座位、胡座位、横座位、立て膝位、投げ足位、側臥位、仰臥位の姿勢における人体の形態係数値を直接測定により求めている。形態係数値は被験者の体型や着衣、姿勢、遮蔽、部位などへの考慮に研究の独自性があるが、その多くは立位と椅座位姿勢が対象である。いずれも熱伝導の影響を無視した数値となっている。しかし、人体とその対象面の多くが接触する平座位や臥位姿勢では人体側の伝導伝熱面積も顕著に大きくなる。したがって、熱伝導の影響は無視し難くなる。そこで、床からの熱伝導を定量的に把握する観点から、実験をおこなっている。人体と近接したり接触する床面での形態係数値は姿勢により大きく異なることを明確にした。また、人体の形態係数値は、人体の軸が対向する壁面に沿う長さや人体の前額面が対向する壁面に面する大きさに強く影響を受けることを明らかにしている。


短波長日射量と長波長熱射量
屋外空間における温熱環境要素を温熱環境評価指標に組み込むために、短波長日射量と長波長日射量の取り扱い手法を示し、平均放射温度への換算方法を明らかにした。そして、日射量の影響を表す屋外空間における短波長有効放射場ERFhtaSと湿度の影響を表す有効湿度場 EHFETFeを理論的に示している。


伝導伝熱面積
立位や椅座位,平座位,臥位の姿勢別の伝導熱授受量を算出可能な重み係数を提案し、その有効性について検討している。オフィスと同様に、欧米では住宅でも椅座位が中心で、オフィスの体感指標と大きく異なることがないために、従来、体感温度指標に関する研究では、通常、椅座位姿勢に限定して考えることが多く、伝導熱授受量は無視されてきた。日本の生活空間では床面に直接姿勢をとる平座位や臥位での生活が多いのが実情である。従来は、床面と人体との間の接触面積は小さく全体表面積に対して無視可能とされ、接触部も立体角投射の法則に基づいて放射による熱交換とされてきた。そこで、生活空間でとる姿勢別に人体と床面との接触部位と接触面積を体表解剖学上の区分毎に実測をおこなっている。立位や椅座位姿勢を除き熱授受量を定量的に把握することが困難であったが、伝導熱授受量を算出するための重み係数を姿勢別に定義し、その姿勢別の伝導熱授受量算出用の重み係数により、伝導熱授受量の定量化を可能にしている。そして、温熱環境を評価する場合の伝導による熱授受量の取扱いを明確にするために、気温と床温とを組み合わせた温熱環境条件のもとで被験者実験をおこない、人体と環境との間の熱収支を算出している。従来のオフィス空間を対象とした研究では、温熱環境を評価の際に、接触による熱伝導の効果を無視してきたが、人体と床面との接触面積比率が約2.5%を越えるような姿勢では、温熱環境を評価する際に、接触による熱伝導の影響を含めた検討が必須であることを明確にしている。




平均皮膚温
伝熱学的に正確な姿勢別の平均皮膚温算出式を提案し、その平均皮膚温の実態を明らかにしている。従来の平均皮膚温算出法は、人体の全体表面積比率による重み平均をおこなう手法が用いられている。しかし、非伝熱面まで含まれているので、人体の熱交換量の算定が不正確になっていた。人体の伝熱面積が十分に把握されていないために、平均皮膚温算出式への組み込みはおこなわれてこなかった。そこで、姿勢別の人体の伝熱面積を体表区分毎に実測により求め、伝熱面積を考慮した平均皮膚温算出用の重み係数を提案し、伝熱面積を考慮することが平均皮膚温の算出値に与える影響を明らかにする実験をおこなっている。立位・椅座位姿勢とも手部や足部では体表面同士の接触や床面との接触により伝熱面積が顕著に小さくなることを明らかにしている。姿勢による部位別の伝熱面積の違いを示し、多様な姿勢がとられる生活環境では、姿勢により平均皮膚温算出法を区別する必要があることを明らかにし、伝熱面積を考慮した姿勢別の平均皮膚温算出用の重み係数を提案している。従来の生理学的なものとは異なり、伝熱学的に正確な平均皮膚温を求めることが可能な理論的に正しい世界で初めてのものである。この研究成果を用いることで、従来の熱収支計算の精度が上がるとともに、姿勢という環境調節行動も評価の対象にすることが可能となっている。全体表面積と比較して対流伝熱面積が小さいほど一般的に用いられているHardy-DuBoisの平均皮膚温との差が大きいという特性を示している。対流伝熱面積を考慮することで、四肢の皮膚温の影響を立位・椅座位姿勢とも平均皮膚温に表現可能なことを明らかにしている。





着衣熱抵抗
着衣熱抵抗に及ぼす姿勢の影響を明らかにしている。着衣熱抵抗は体表面から着衣表面までの間の空気の性状に影響を受け、着衣の組合わせや着衣のゆとり、姿勢、気流、気温などに関連する。しかし、気流や気温、姿勢などの着衣熱抵抗値に与える影響は明らかにされていない。そこで、立位と椅座位、胡座位、投げ足位、仰臥位姿勢におけるサーマルマネキンを用いた実験をおこなっている。姿勢によって着衣熱抵抗が異なることを明確にし、従来の着衣熱抵抗の実測方法や算定方法では姿勢の効果を表現できないことを示している。そして、温熱環境の設計や評価をする場合には、姿勢の違いを考慮して着衣条件を検討し、着衣熱抵抗を定めることが不可欠であることを明確にしている。


着衣面積増加率
着衣面積増加率に及ぼす姿勢の影響を明らかにしている。従来は人体の一部のみを対象にした写真撮影法によるデータに基づいた算出値が利用されてきた。しかし、着衣の重なりや組み合わせ方、着衣のゆるみ度などは考慮することができていない。そこで、立位と椅座位、胡座位、投げ足位、仰臥位姿勢におけるサーマルマネキンを用いた実験をおこなっている。衣服の折れや重なりによる衣服の表面性状の変化や衣服内空間の空気層の変化などが影響し、姿勢の違いが着衣面積増加率に強く現れること示し、従来の着衣面積増加率の算出式では算定値に姿勢の効果を表現できないことを明らかにしている。そして、異なる仰角で人体を取囲む方位角にて着衣面積増加率の実測をすることが不可欠であることを明確にし、従来の着衣面積増加率の実測方法では実測値に姿勢の効果を表現し得ないことを示している。



温熱環境評価指標
行動性体温調節を考慮した温熱環境の評価を可能とするために、熱伝導を組み込んだ新たな室内温熱環境評価指標であるETFを開発している。従来は熱伝導の影響を定量的に温熱環境評価指標に組み込めていなかった。すなわち、日本の生活空間における平座位や臥位姿勢といった生活環境を体感気候の観点から評価できなかったといえる。そこで、気温、気流、熱放射、熱伝導および湿度の5つの各影響を独立に温度換算し、加算した式として表現できる新たな室内温熱環境評価指標を開発している。そして、都市の温熱環境を改善する気候緩和効果を定量的に明らかにするために、屋外空間における体感への総合的な影響と個別の気象要素の影響を同一評価軸上で数量化を可能とする新たな屋外温熱環境評価指標を開発している。気温と風速、長波長熱放射、熱伝導、湿度、短波長日射量の6条件を含めたETFeを新しく導き、屋外空間における姿勢の違いを考慮した温熱環境の評価を可能としている。さらに、温熱環境条件の組み合わせの影響を求める被験者を用いた実験の結果によって、温熱環境評価指標としてのETFとそれを構成する要素の指標の有効性の検討をおこない、その特性を考察している。ETFは、平均皮膚温と強い相関が認められ、温熱環境評価指標として有効であることを明らかにした。温熱環境の評価軸に気温と風速、熱放射、湿度、熱伝導のパラメータを含めたことにより、体感への総合的な影響と個別の気象要素の影響を、同一評価軸上で数量化して表現可能であることを検証し、その実用性を明確にしている。屋外空間における温熱環境刺激が人体影響に及ぼす影響を明らかにする被験者実験をおこない、屋外温熱環境の評価には気温と湿度、短波長日射、長波長放射、熱伝導を評価要素として組み込むことが不可欠であることを明確にしている。ETFeは夏季の屋外空間の温熱環境評価指標として利用が可能であることを明らかにしている。






                          

                          





温熱環境が人体の生理および心理反応へ与える影響
温熱環境が人体へ与える影響を被験者実験により明らかにし、従来の体感温度指標が有効であるかの検討をしている。現実の空間は不均一環境にも関わらず、実態は均一環境を対象に提案されている従来の体感環境指標を用いて環境の計画や設計がなされている。そこで、熱放射温度が気温と等しい・気温より高い及び気温より低い場合と、左右の壁面温度が対称及び非対称の場合を組み合わせた、3段階のほぼ一定体感温度範囲となる温熱環境が人体へ及ぼす影響を生理・心理反応を通じて調べる実験をおこなっている。心理反応としての温冷感・快適感の経時変動は、非対称な熱放射条件の場合、暑い側と寒い側、あるいは快適な側と不快な側のある範囲を往復するような申告の変動を明らかにし、左右いずれかの熱放射に対して無意識な選択がなされて感覚の申告がおこなわれていることを明らかにしている。また、放射条件ごとに場合分けして体感温度指標と平均皮膚温との関係をみると、各条件別に対応関係が得られることを明らかにしている。従来の均一環境を対象にした体感温度による温熱環境表現では、非対称および不均一な温熱環境を十分に表現しきれないことを明確にし、熱放射の指向性や温冷といった熱放射の種類を考慮する必要性を示している。次に、姿勢の違いに着目し、人体の熱収支を定量的に取り扱ったうえで、気温と床表面温を組み合わせた条件での床暖房条件の違いが人体に及ぼす影響を明らかにする被験者実験をおこなっている。修正平均皮膚温と修正作用温度との関係には、姿勢別に異なる回帰式が求められ、その差は無視し難いものであることを示している。日本の生活空間では、姿勢別に温熱環境評価をする必要性を明らかにしている。そして、床暖房設備を備えた住宅の温熱環境を実測し、立位と椅座位、正座位姿勢の体感温度を推定し、姿勢を変えることによる行動的な温熱環境の改善を定量的に明らかにしている。次に、気温と風速・熱放射、湿度、熱伝導の5つの温熱環境の影響を求める被験者を用いた実験をおこなった。人体の生理的・心理的な反応とETFとの関係より、温熱環境評価指標として有効であることを検証し、その実用性を明らかにしている。ETFは、気温と風速、熱放射、湿度、熱伝導の影響を総合的に表現する温熱環境指標であることを実証し、生活環境における人体と環境との間の熱伝導の影響と姿勢の効果を評価できることを明確にしている。そして、行動性体温調節としての姿勢の違いを評価可能な屋外温熱環境評価指標ETFeと人体の生理的・心理反応との関係を示すために、屋外空間における温熱環境刺激が人体影響に及ぼす影響を明らかにする被験者実験をおこなっている。樹木などの緑で構成する自然景観観測点は他の景観観測点と比較して、生理量である平均皮膚温が上昇しても快適感の低下が小さいことを明らかにしている。都市景観に代表されるようなコンクリートと金属などで構成される無機質な人工要素空間よりも樹木などで構成する自然要素空間の方が快適感の改善には有効であることを明確にしている。温熱的に中立な温冷感申告と快でもなく不快でもない快適感申告をする中立な平均皮膚温を明らかにしている。


















人体の快適温熱環境域
屋内環境と屋外環境における至適温熱環境の範囲を提案している。放射床冷暖房がおこなわれている空間では、人体とその対象面との距離が近接したり放射源の伝熱面積が著しく大きくなる。加えて、床面と直に多くの体表面が接する平座位や臥位姿勢では人体側の伝導伝熱面積も顕著に大きくなり、人体の温冷感や熱的快適感に与える影響は通常の気温のみを制御対象とする空間に比較して強くなる。したがって、床冷暖房環境では、床からの熱放射と熱伝導を定量的に把握することが温熱環境評価・設計・制御には不可欠である。そこで、気温と床表面温を組み合わせた条件での床冷房条件の違いが人体に及ぼす影響を明らかにする被験者実験をおこなっている。熱放射と熱伝導の影響を組込んだ伝導修正作用温度は、熱放射と熱伝導の効果を気温換算して的確に表現し得る温熱環境指標であることを示している。そして、床冷房の冷却の効果により、全身の温冷感申告値が中立温冷感よりも暑い側を好む傾向を明らかにしている。投げ足位姿勢での床冷房の至適温熱環境条件は、伝導修正作用温度が25.3~30.5℃の範囲となることを提案している。さらに、人体が床面から受ける熱伝導と熱放射による冷却の効果により、空気冷房設備よりも床冷房設備の方が室内空気温度をより高い側に設定できる可能性を明らかにしている。また、屋外空間における人体の快適範囲を明らかにするために、夏季と冬季の屋外温熱環境における人体の生理的・心理的反応を求める被験者38名を用いた延べ実測数906の実験をおこなっている。暑くもなく寒くもない温熱的に中立な温冷感申告をすると考えられる夏季のETFeは31.6℃、冬季のETFeは36.0℃であることを明らかにしている。夏季の場合と比較して冬季の場合の方がETFeに対する傾きが大きくなり、暑さに対する反応よりも寒さに対する反応が強くなる傾向を明らかにしている。快でもなく不快でもない快適感申告をする寒い側の温冷感申告値は44.7、暑い側の温冷感申告値は55.1であることを明らかにしている。この条件を快適温熱環境範囲としてETFeと温冷感申告値との関係から快適なETFeの範囲を求めると、屋外環境における至適温熱環境のETFeは31.6~38.5℃の範囲となることを提案している。








人体反応の解析と人体と温熱環境の科学的な記述
温熱環境の人体影響の解明と、その結果を居住環境の創造や改善に活かすことを目的として、基礎的な熱の流れに関するデータを制御系に組込むための人体形状三次元数値人体モデルの開発や体感温度表現による行動性体温調節としての姿勢に着目した省エネルギー性に関する検討をしている。従来の人体モデルは、人体の形状を模擬する程度で、伝熱経路に関する伝熱学的な検討はおこなわれてこなかった。そこで、人体と環境との間の熱収支の算出の基準となる人体の伝熱面積に着目した椅座位姿勢の人体形状モデルを開発するために、被験者の体表面の三次元座標の実測を非接触3次元デジタイザを用いておこない、人体を微小な三角形で構成した椅座位姿勢の人体形状モデルを構築している。伝熱学的な有効性を検証するために、人体と周囲環境との間の熱交換量の算定に不可欠である人体の体表面積・伝導伝熱面積・対流伝熱面積・放射伝熱面積を被験者を用いた実測により明らかにし、その妥当性を定量的に検証している。数値シミュレーションに適するように人体モデルを構築する座標点を減少させた汎用人体形状三次元数値人体モデルを開発し、各伝熱経路とも5%程度以下の伝熱面積の差で収まることを定量的に検証している。次に、熱放射と熱伝導を利用した空調設備の省エネルギー効果を検証するために、気温と床表面温を組み合わせた条件における被験者実験をおこない、熱収支に基づいた体感温度による人体影響の検討をおこなっている。床面と人体との伝導伝熱面積が大きい平座位姿勢では、床冷房は床表面温を気温よりも1~2℃程度低く設定することで、熱伝導と熱放射の冷却効果により熱的な快適性が得られる温熱環境をつくることが可能であることを示している。床暖房設備の年間利用を考慮すると、設備の効率的な運転も可能となり、省エネルギー効果が期待できる可能性を明らかにしている。環境調節行為を気流速度や放射温度、着衣量、代謝量、伝熱面積などの物理的・生理的係数値に置き換えて、人体の生理・心理的影響との関係を検討している。行動性体温調節の効果を体感温度で表現し、体感温度を住まい手の立場からの温暖化防止のための環境会計的な指標とし、伝導修正新有効温度ETFを用いることで室内環境要因の個別の制御目標値が立案できることを明らかにしている。環境調節行為を環境家計簿へ組み込むことが可能であることを示している。次に、民生用のエネルギー節減を図るにために、戸建て住宅の室内温熱環境の実態と断熱性能を分析をおこない対費用効果に配慮した断熱改修をおこないエネルギ節約の効果を検討している。居住域の上下温度差と屋外と室内の日格差の比、最高気温の発現時の位相差は和室の位相差より、気温変動の影響を受けにくいことを明らかにしている。換気回数と相当隙間面積、住宅の各構成面の使用材料より積み上げた平均熱貫流率より、熱損失係数は1.97W/m2Kとなり、比較的断熱性の高い住宅であることを明らかにしている。消費エネルギー節減のために建物の断熱性の改良をおこない、その効果を原油一次エネルギー換算で示している。基礎を断熱基礎に変更する対処をするならば、原油一次エネルギー換算で約22.81(crude oil)ℓ/yearの節減効果が見込めることを明らかにしている。次に、植物を眺めることによる省エネルギーの効果を明らかにするために、やや不快となる温度領域の環境範囲内で被験者実験をおこなっている。草木などの緑が含まれる景観画像が体感温度への効果を明らかにし、積極的に室内空間に視覚刺激を組み込むことの意義を明らかにした。次に、オフィスビルのペリメータゾンや日差しがあるリビングルームなどの室内空間における人体の体温調節反応の予測をおこなうために、短波長日射と熱伝導による熱的影響を組み込んだ体温調節モデルを開発している。この体温調節モデルが予測モデルとして有効性を検証するために、被験者を用いた実験をおこないその有効性を明らかにしている。そして、環境温度による人体の皮膚層と深部層との間の熱コンダクタンスを検討する事が必要であることを受けて、熱伝導による人体組織間の熱コンダクタンスの皮膚層の質量割合によるモデル式を組み込んだ屋外空間における行動性体温調節をする人体の体温調節反応の予測をおこなうための体温調節モデルを開発している。環境要因として、短波長日射と長波長放射、熱伝導による熱的影響が組み込まれている。屋外温熱環境評価指標ETFeとの関係より、短波長日射や熱伝導などの温熱環境条件から受ける影響を表現可能であることを示している。